「天高く馬肥ゆる秋」という言葉があるように、秋は食の充実した季節だ。空気が清涼に澄み、山野から様々な恵みが届く。なかでも、きのこと栗は秋の食卓を象徴する存在として、日本人の心に深く刻まれている。
松茸(まつたけ)の香り、しいたけの旨味、舞茸(まいたけ)の繊細な食感——秋のきのこはどれも個性的で、素材そのものが主役になれる食品だ。そして栗の甘さ、そのほっくりとした食感は、秋の空気とともに、郷愁の記憶を呼び起こす。
きのこ——森の恵みを食卓へ
日本はきのこ文化が世界的に見ても極めて豊かな国だ。古来より山野のきのこを採取する「きのこ狩り」は秋の風物詩であり、地域の食文化と深く結びついてきた。現在でも、長野や山形、岩手など山深い地域には、地元ならではのきのこ料理が数多く残っている。
松茸は、その王者的な地位を長く保ってきた。独特の香気成分「桂皮酸メチル」と「マツタケオール」が生み出す芳香は、他のいかなるきのこも及ばない。しかし近年、松茸の国産品は希少性が増し、価格も高騰している。それゆえに、松茸の香りをまとった土瓶蒸しや松茸ご飯は、秋の特別なご馳走となった。
「きのこは、森と土と菌が共同制作した芸術品だ。その複雑な旨味と香りを引き出すには、シンプルな調理法が一番良い。」 — 佐藤 健二 / 文化・暮らし担当
栗——秋の黄金色
栗ご飯の季節が来ると、日本中の家庭の台所に秋の香りが満ちる。栗の甘みと米の旨味が合わさった栗ご飯は、秋の家庭料理の代表格だ。栗の皮を剥く作業は少々手間がかかるが、その手間が料理に愛情を加える。
和菓子の世界でも、栗は秋の主役だ。栗羊羹、栗饅頭、栗きんとん——茶道の席で出される秋の和菓子に栗が使われることは多い。栗きんとんの上品な甘みと、口の中で溶けていく食感は、まさに秋の深まりを表現している。
秋の食卓が語るもの
秋の食材には、冬に備えるための滋養が詰まっている。きのこのビタミンDは、日照時間が短くなる秋冬に不足しがちな栄養素だ。栗のでんぷんと糖質は、体を温め、エネルギーを蓄える。さつまいも、ごぼう、れんこん——これらの根菜類も、秋の食卓を豊かに彩りながら、体を内側から温める働きをする。
秋の食材を前にするとき、私は「自然は無駄をしない」という真理を改めて感じる。きのこが最も香り立つのは秋。栗が実るのも秋。体がそれらを必要とする季節に、自然はそれらを提供する。この見事な一致の中に、人間と自然の深い関係が宿っている。
秋の食卓を丁寧に整えることは、自然の恵みへの感謝を体で表現することだ。きのこ汁の湯気の向こうに、秋の山の気配を感じながら食べる一椀は、単なる食事を超えた体験になる。そのような食の豊かさを、私はこれからも伝え続けていきたい。



